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死者に引き上げられて生きる

2024年7月30日

この人とは長いお付き合いになるだろう,
お互い白髪のおばあさんになっても,
時には向かい合っておしゃべりに興じ,時には並んで芝居や音楽を楽しむ,
そんなお付き合いをしていくことになるだろうーー

そう信じて疑わなかったそのひとは,1年の闘病を経て
32歳で亡くなってしまいました。

お通夜の夜,これからどんなに長生きをしても
これほどきれいな死に顔を見ることはないだろうと
飽かず彼女の顔を見つめていた時,
彼女の婚約者の方が私のそばに来て,こんなことを言いました。

「彼女は本当にいい人だったから,すばらしい人だったから,
きっととても高いところに行く人だと思うんだよ。
だから僕たちは,これからうんと徳を積まなければ,
死んだ時に彼女に会えないと思うんだ」


徳を積むなどということに無縁の私は,
その言葉にもう彼女には会えないのだと早々に諦め,
これといった徳を積むこともなく,この夏22回目の命日を迎えました。

ただ,最近になって,いまからでも間に合うかしら,
などと思うようになったのは,
人生の折り返し地点をとうに過ぎ,まだ先のこととは思いつつも,
あちらの世界に親しみを感じるようになったせいかもしれません。

婚約者の方に言われた言葉をある人に話した時,
「死者に引き上げられて生きる,という言葉があります」
と言われました。
誰の言葉なのか,聖書か何かの言葉なのか,
確かめることはできませんでしたが,
亡くなった人にも力がある,ということかと思います。
私は引き上げてもらうための努力もせずに生きてきましたが,
遺された者がその人を忘れずにいれば,
その力はずっと共にあり,手は差し伸べられる…
と考えるのは虫が良すぎるでしょうか。

夏は亡くなった人を近くに感じる季節。
頭がぼうっとするほどの大変な暑さが続いていますが,
今まで見送った人たちを思い浮かべながら過ごすのも
悪くないかもしれません。

(梅)
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