公開中の映画
『茶飲友達』を観ました。
映画のモチーフとなっているのは,
2013年に売春防止法違反の疑いで摘発された
高齢者向けの売春クラブ。
「茶飲み友達紹介」とだけ書かれた新聞の小さな広告を見て電話をかけてきた,
高齢の男女間での売春を仲介していたようです。
10年の間に集まった会員は約1350人,
平均年齢は1000人に及ぶ男性会員で65歳,女性会員でも60歳で,
最高齢は男性で88歳,女性で82歳だったとか。
なかなか衝撃的な事件ですが,映画を撮った外山文治監督は当時,
「会員登録をしていた高齢者たちはこれからどうなるのだろう」
と思い,映画の企画を考え始めたのだそうです。
当時は「高齢になっても性欲は衰えないのか」といったことが注目され,
面白おかしく取り上げられたこともあったようですが,
監督には違う面が見えていたのでしょうね。
映画では
高齢者の孤独や焦燥感とともに,
若者が抱える孤独や貧困も同時進行で描かれます。
共通の問題を抱える高齢者と若者が売春クラブを媒介としてつながり,
「誰かの役に立っている」「自分のためにもなっている」
という信念のもとに“家族のようなもの”をつくりあげたものの,
ひとつの事件をきっかけにあっけなく自壊していく様子には,胸苦しさを覚えました。
先の見えない時代,
高齢となった自分が
孤独や貧困と無縁であるという保証はどこにもない
と感じるからでしょうか。
孤独に関してはイギリスに次いで日本にも
「孤立・孤独担当大臣」なるものが生まれていますが,
もうひとつ,同じくイギリスで生まれた
「社会的処方」という取り組みが
日本でも少しずつ広まっています。
簡単に言ってしまえば,
人と人をつなぐ「処方」をするこの取り組みは,
イギリスでは医療者が,医療以外の何らかの支援が必要と判断した患者さんを
「リンクワーカー」という専門職につなぎ,
患者さんを地元のサークル活動や趣味の集まりなどとつなげて
社会的に支援していこうというものです。
この人には運動が必要だとなればスポーツを楽しむサークルに,
人とのかかわりが必要だとなれば本人にあった趣味の集まりに。
場合によってはその患者さん自身の特技を生かすような
新たな場を設けることもあるそうです。
もちろん,日本には「リンクワーカー」なる専門職の制度はありませんし,
忙しい診察室で医療者がそのような「処方」にかかわるのは困難です。
現時点では
志のある医療者が中心となって,患者さんに限らず
健康や介護に関する困りごとを抱えた人が気軽に立ち寄れるような場を作り,
「社会的処方」に取り組んでいるようです。
このような活動に公的な支援が得られるようになれば,
高齢者の孤独の解消につながるかもしれませんし,
若者の孤独への取り組みにも活用できるかもしれません。
(梅)