以前,脚本家の倉本 聰さんの講演で伺った話です。
「最後の晩餐」をテーマに脚本を書くべく倉本さんがいろんな人に取材をしていた際,
いわゆる“反社の皆さま”に「最後に食べたいものは?」と尋ねたところ,
全員が「そりゃあシャブでしょう!」と即答したのだとか。
その答えには,
「ああ,もういちどあの恍惚感に浸りたい」
「死の恐怖を紛らわすにはあの多幸感しかないよな」
・・・等々,人それぞれに意味があるのだろうと想像しますが,
それにしても最後の晩餐にまで薬物を,とは驚きです。
一度ハマってしまったらなかなか抜け出せないという,
薬物の「魔力」がよく伝わってくるエピソードです。
(ちなみに「最後の晩餐」企画はボツになったそうです)
ところで,“薬物依存症者”と聴いて,
みなさんはどんな薬物,どんな人をイメージされますか?
快楽を得るために大麻や覚醒剤といった違法薬物にどっぷりハマってしまう,
自分とは別の世界に住む人,とイメージされる方が多いのではないかと思います。
しかし,今の日本では,睡眠薬や抗不安薬といった処方薬,
風邪薬(咳止め)などの市販薬の依存症となる,
非行歴などのない新たな“薬物依存症者”が増えています。
そもそも薬物依存症者の約半数が何らかの精神障害を抱えており,
しかもその大半が依存症になる前から,という調査結果もあることから,
薬物を「快楽を享受するために使う」というよりも,
何らかの精神的な苦痛を抱えているがためにその「苦痛を緩和するために使う」,
そんな人が増えていることが考えられるのだそうです。
薬物依存症は,治療を必要とする「病気」なのですが,
その治療や回復支援については医療者においても周知されているとはいえません。
むしろ薬物依存症者への偏見を持つ医療者も多いようです。
検査で違法薬物の陽性反応が出るや警察に通報し,
それを手柄のように自慢する医療者もいるようですが,
医療者に通報の義務はなく,通報しなかったからと罰せられることもありません。
治療を必要とする「病気」である薬物依存症を抱えた人に対し,
医療者がすべきことが「通報」以外にあるのではないでしょうか?
今月10日発行の『新薬と臨牀』1月号では,
「薬物依存症からの回復のために
―国立精神・神経医療研究センターの取り組み」
という特集を掲載しています。
同センターでは,たとえまた薬を使ってしまったとしても,
そのことを安心して告白できる場をつくり,
依存症の方が継続的に支援を受けやすい体制を整えています。
今や全国の薬物依存症回復支援施設に広まっている回復支援プログラム
「SMARPP」の開発に大きな役割を果たされた,
同センター精神保健研究所の松本俊彦先生に
「薬物依存症からの回復のために医療者は何ができるか」について,
また臨床心理士の今村扶美先生,近藤あゆみ先生や作業療法士の村田雄一先生には,
回復支援の実際や,依存症者の家族支援の重要性についてご執筆いただきました。
さらに,薬物依存症を克服され,
八王子に薬物依存症のリハビリ施設「ダルク」を開設された加藤 隆さんに,
なぜ地域社会にそのような施設が必要なのか,
“人が人を支援する”とはどういうことか,といったことついて
ご自身の経験をふまえてご執筆いただいています。
罰や隔離,排除で薬物依存症は治りません。
おかげさまで今年創刊69年を迎える『新薬と臨牀』の1月号,
ぜひご一読ください!
(梅)