6月の終わりに小林麻央さんの訃報が伝えられた際,
自宅で最後の1カ月ほどを過ごされ,家族に囲まれて亡くなられたという報道を受け,
「恵まれたひとだからできたこと」といった内容のコメントがネット上で多く見られたようです。
国の後押しもあって在宅医療が急速に進み,
いまや病院で死にたくても死ねないような状況になりつつあるというのに,
まだそういったことが知られていないということにちょっと驚きました。
また最近は,在宅患者さんの増加に伴って,
急変により救急車で運ばれてくる在宅患者さんをめぐり,
在宅医療と救急医療の間で様々な問題が起きているようです。
たとえば家で看取ると決めていたのに,
患者さんの急変に慌てた家族が救急車を呼んでしまった場合。
救急医療の現場では患者さんの救命を第一とするため,
看取りの段階にある患者さんが望む医療とは異なる医療が行われてしまうことがあります。
またその逆に,適切な処置を行えば救える状態なのに,
延命措置を拒否するリビング・ウィルを理由に処置を拒まれてしまうこともあるのだそうです。
というわけで,7月22日,虎ノ門で開催された,
第一回日本在宅救急研究会に参加しました。
研究会は,そのような様々な問題を解決すべく,
在宅と救急の医療者が同じテーブルで話し合いましょう,
という趣旨で立ち上げられたものです。
当日は医療者のみならず高齢者介護施設の施設長やケアマネージャーなど,
様々な職種の方が北海道,九州を含む全国各地から集まり,
300名が定員の会場は補助席が出るほどの盛況ぶりでした。
それだけ多くの人がこの問題に関心を寄せているということであり,
実際,最後の討論の時間には現在起きている問題が参加者から次々と提示され,
制度や体制の不具合を指摘する声も多く聴かれました。
そんななか,シンポジウムに登壇された,
訪問看護のパイオニアとして知られる白十字訪問看護ステーションの
秋山正子先生がコメントを求められた際,
「たとえば,頻繁に救急車を呼ぶご高齢の方は確かにいらっしゃいます。
でも,不安でそこに頼らざるを得ないその方の背景を思いやることも必要ではないでしょうか。
ご自宅に帰っていただく際に,次に同じような状況になったらどうするべきか,
はたらきかけることも大切だと思います」
とおっしゃったことが心に残りました。
余裕のない医療現場では難しいことかもしれませんし,
問題解決のために行政や様々な機関に働きかけることももちろん大事ですが,
患者さんの話に耳を傾け,患者さんの立場に立つことが,
遠回りではあっても医療の大切な原点ではないかと思いました。
以前,秋山先生が同様の発言をされた際,救急の現場の方からは
「そんな暇はない」と一蹴されたそうですが,
研究会の会場からは大きな拍手が起きました。
患者さんのためのいい研究会に発展することを,期待したいと思います。
(梅)