9月18日,武蔵野大学で開催された
第9回日本スピリチュアルケア学会に行ってきました。
・・・と友人に言ったところ,
「なにそれ? なんかアヤシイ学会?」
と言われてしまったのですが,決して怪しい学会ではありません。
スピリチュアルペインのケアにあたる“スピリチュアルケア師”の
育成を目的として07年に設立された学会で,
今月5日に105歳になられた聖路加国際病院の
日野原重明先生が理事長を務めていらっしゃいます。
当日は日野原先生もお元気にご講演をされていました。
ただ,先の友人の発言からもわかるように,
“霊性”などと訳されることもある“スピリチュアル”という言葉そのものに
ちょっと怪しい印象を抱いている人は多いようで,
“スピリチュアルケア師”も,以前流行った,
人の前世を当てるという“スピリチュアルカウンセラー”と同じように
思っている人もいるかもしれません。
もちろん,違います。
スピリチュアルペインという言葉は,緩和ケアの領域ではよく耳にする言葉です。
緩和ケアでは,ケアすべき4つの苦痛があるとされています。
痛みによる身体的苦痛,不安や抑うつといった精神的苦痛,
病によって仕事を失うなど今までの役割を果たせなくなることによる社会的苦痛,
そして,“なぜこんな病になってしまったのか”“なぜ死んでいかなくてはならないのか”
“自分の人生はなんだったのか”といった問いによる苦痛。
この4つめの苦痛がスピリチュアルペインです。
これら4つの苦痛のうち,身体的・精神的・社会的苦痛が,
薬やさまざまな社会制度の活用によってある程度ケアができるのに対し,
スピリチュアルペインのケアは困難を伴うとされています。
アメリカをはじめ欧米諸国では,宗教者が病院や学校や軍隊,刑務所などで
スピリチュアルペインのケアをする役割を担っていることから(布教活動は禁じられています),
スピリチュアルペインは宗教者が対応すべきとする医療者もいます。
その一方で,終末期の患者さんから宗教者と話がしたいなんて言われたことはない,
必要ない,と言う医療者の方もいます。
でも,医療者にそのような希望を出す人はそうはいないでしょうし,
日ごろ無宗教を自認する多くの日本人は,
自身のスピリチュアルペインを和らげてくれるものが宗教,
あるいは“宗教的なもの”にあるかもしれないなどとは思わないかもしれません。
スピリチュアルケア師の養成プログラムでは,
医療や福祉とともに宗教についても学ぶことが必修とされており,
認定された方の中には宗教者の方もたくさんいらっしゃるようです。
個人的には、死期の迫ったとき,あえて家族でも友人でも医療者でもない第三者,
私のことも,私の病気のこともよく知っているわけではないけれど,
人間の真理,生きること,死ぬこと,命の始まりや,
命がどこに帰っていくのかといったことに日頃から深く思いを巡らせている人,
長年伝わってきた宗教の教えや言葉を持っている人との対話は,
苦痛を和らげ,重い気持ちを変える,きっかけになるのではないかと思うのですが、
そのような意識を終末期医療の現場で共有することはなかなか難しいようです。
しかし、学会では,スピリチュアルケアの重要性や,医療現場での宗教・宗教者の役割について
関心をお持ちの医師の方々にお会いすることができました。
スピリチュアルケアにあたる臨床宗教師という宗教者を正式に採用する医療機関も出てきているようです。
日本の終末期医療の現場も,少しずつ,変わり始めているのかもしれません。
(梅)