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医師の熱い想いに薬の東西はない

2016年7月14日

弊社発行の『新薬と臨牀』では,誌名に“新薬”とあるものの,
不定期ながら漢方についての企画記事も掲載しています
漢方,というと,エビデンスがない,作用機序が解明されていない,使いこなすのが難しい,
といったイメージをお持ちの先生もいらっしゃるようですが,
最近では西洋薬と組み合わせて抗がん剤の副作用をコントロールしたり,
術後の患者さんの体調を整えたりと,
漢方をうまく使いこなされている先生もたくさんいらっしゃいます。

7月10日発行の『新薬と臨牀』7月号では,
「遅発性ジスキネジアの薬物治療~抑肝散の投与工夫を中心に~」と題し,
抑肝散を用いた遅発性ジスキネジアの対処法について,
島根大学医学部精神医学講座堀口 淳先生にご執筆いただきました。

遅発性ジスキネジアは,抗精神病薬を
長期間多剤併用している患者さんで発現することの多い症状
です。
口唇をもぐもぐさせる,舌がねじれる,前後左右に身体を動かす,
といった症状が患者さんの意思とは関係なく起こります。
時には横隔膜や呼吸筋にも症状が起こり,
窒息死につながることもある恐ろしいものですが,
現在のところ決め手となる治療法はありません。
日本では抗精神病薬の多剤併用投与が問題視されており,
その撤廃に向けて診療報酬の改定なども行われていますが,
発性ジスキネジアは減薬・断薬過程で発現することも多く,
苦しい思いをしている患者さん,対処に悩まれる先生方が
たくさんいらっしゃるのではないかと思われます。

そんな遅発性ジスキネジアに,堀口先生は抑肝散を用いた研究で効果を証明されています。
抑肝散は古くから子どもの夜泣きやいわゆる“疳の虫”に用いられてきた漢方ですが,
近年では認知症患者さんの周辺症状(興奮・徘徊・暴力・妄想など)に対して
用いられることでも知られています。
堀口先生は,その抑肝散を遅発性ジスキネジアだけでなく,
統合失調症や境界性パーソナリティ障害といった精神疾患に用いる研究をされており,
論文も多数発表されています。私は以前,堀口先生の論文「脳には東も西もない」を読み,
“脳は万国共通。西洋薬と漢方を区別する時代はもう終わっている”という先生の言葉から,
イメージや固定観念に縛られない先生の姿勢,またその背景にある,
患者さんの苦痛をなんとかしたいという想いに触れ,
いつか『新薬と臨牀』にもご執筆いただきたいと考えていました。

7月号掲載の記事では,遅発性ジスキネジアに対する抑肝散の具体的な投与法について,
多くの文献や効果を示す図なども併せてご執筆いただいています。
抗精神病薬の減薬・断薬を試みられる先生方にご参考にしていただけましたらと思います。
専門的な治療の話なんてわからないよ,という方も,
患者さんの快復と幸せを願う堀口先生の熱い想いは感じていただけるはずです。
ぜひご一読ください!

(梅)
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